陰翳


乱反射する
緑の光線をつらぬいて
小鳥の叫びが聴こえてくる
昨日 窓の空の下で
死んでいた
一羽の小鳥のために
今朝の蒼空はある

うごかない
濃い樹影のなかに
小鳥の屍骸がある
わたしの想念は
死にみちている

雲ひとつない
空は ただ
沈黙があるばかり
わたしは 朝の光りを
背にうけて 苦しい心を
行かねばならない


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春の扉


きつねのぼたんの
眩い黄色い野に
渦巻く熱い風
野焼きの火に燃える木蓮の花
向うの杉林が緋色に融ける
体温計の青い水銀は
四十度まで膨張している
生きものの
盛んな息づかいが
内耳を塞ぐ
微生物が発酵している
アルコールの臭い
舌が熱い
燕が胸の下に卵を抱いている
わたしは冷たいガラス瓶を抱く
いっぴきの蛍が
去年の夏の姿のまま
存在した証のように
そのなかにいる
わたしは知らずにいたのだ
こうして
春が来たことを


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春の宵


遠くから
さざ波のように
浸りくる
浅い眠り

なかに
しのび入る

漂い 揺れながら
小さな岩を越え
暗い水面が
閉じると
昨日の苦痛も
明日の慰めも
忘れてゆく
幸福な
奇跡である



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「信」について



それは、ずっしりと実った
葡萄の房をのせた
手の感触
濃密な果汁が
手から心臓へ伝わり
渇いた血管を充たす

それは、赤い薔薇が
赤く咲こうとする
燃える意思
人から人へ伝わり
希望のリフレインとなる

それは、無傷の
一枚の布を
黄色に染めて
空高く掲げられ
風をはらんで翻る
その頂きに人々の視線は
集まるだろう

けれども、それを
わたしは見上げることができない
一枚の布の影に
この世界の吹き荒れる
数知れない現実が
包まれてしまうのを拒むのだ
わたしの不信が見つめる
ねじれた視界のなかで
それは、永遠に遠い




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林檎


春分の日が
訪れようとしていた
寒い朝
母は
往った

あなたが
買っておいた
箱いっぱいの
林檎が いま
部屋の暗がりで
匂っています

母よ
残りの時間は
あなたにも
だれにも
分からなかった


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プロフィール

Iwahori Junko

Author:Iwahori Junko
日々、考えたり感じたりしたことを綴ります。
詩集「水の感触」(2013年)
詩集「水の旋律」(2015年)

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